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蠅の王
ウィリアム・ゴールディング 著 | 小説 1954年
新潮文庫

Jul. 13. – 16. 2010 読了

“突然、あることに気づき、愕然とした。この物憂い人生の姿が、今、急に理解できたように思われたのだ。彼は人生のあらゆる行路は、いわば、その場その場限りのものではないのか、われわれの現実の生活の大部分は、自分の足もとを用心することだけに過されているのではないか、と思われた。”

中高生の頃に読んでいた望月峯太郎の漫画「ドラゴンヘッド」はこの本から着想を得て描かれたんだなと、読んでいるうちに気づいた。
 飛行機事故で無人島に不時着した子供たちは、自分たちで決めたリーダーを中心に協力して島での生活を始めたが、些細な考えの違いから対立が始まる。最初は話し合いによる解決を図っていた彼らも、徐々に対立が深刻化し完全に決裂する。“蛮族”と書かれてはいるが年相応の子供らしさや“言葉”を失っていない少年たち——物語冒頭では故国イギリスに誇りを持って自律的に行動していた彼らが、その先にある“殺・死”を理解しつつ、元の仲間を森に棲む豚のように狩り出す様子はただ不気味で冷えぴたクール。
 それは破綻による突然の暴発ではない。彼らの理性が徐々に崩れていく様を 350頁かけて丹念に描写することで、外部要因ではない、人間がもともと内に抱えている獣性に気づかされる。“蛮族”たちが特別に他より悪党であったわけではない。大人や社会から隔離された状況における不安感や恐怖感に晒されるうちに自らの内に持つ獣性に目醒めてしまったのだ。
 物語の最後、子供たちのリーダー、しかし狩り出される側であったラーフは、無垢(イノセンス)が失われたことに涙を流す。ラーフもまた、対立の中で獣性を目醒めさせていた。
 子供だから、というのでは済まなかったお話。

“父と母に捧ぐ”  冒頭の献辞

“「ああ、分ってるよ。初めはものすごくうまくいってたんだね。『珊瑚島』みたいにね」”  終盤の台詞

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